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年次有給休暇の留意点

労働者から有給休暇を取らしてもらえない!といった相談が後を絶ちません。

たとえ経営者や人事総務担当者が有給休暇について理解していても、労務知識の少ない事業所(店舗等)のリーダー職や管理職により不適切な対応がトラブルの原因となってしまうこともあります。年次有給休暇を運営するにあたっての留意点を整理しました。

(年次有給休暇の労務管理のポイント)

 

●労働者からの有給申請(時期指定)は、原則、拒否できない

●アルバイトやパートにも有給の権利が発生し得る

●有給休暇についての正確な知識の社内周知が重要

●不適法・不適切な対応は、罰則や損害賠償のリスクあり

●時間単位年休で柔軟な働きかたも可能

 

 

(対象労働者)

アルバイトやパートを含む、すべての労働者が有給休暇の付与対象となる可能性があります。正社員のみなど対象を限定することはできません。特に、アルバイトやパート社員は有給休暇についての知識が乏しい可能性があります。雇用時や契約更新時など有給休暇について情報提供しておいた方が、のちのトラブルを回避できるでしょう。

 

 

(有給休暇の取得手続き)

労働者が事前に有給休暇の時期指定をしたときには、原則、取得させなければなりません。また、有給休暇の取得においては、「使用者が承認しないと取得できない」という社内ルールは適切ではありませんし、利用目的などを申告させるのも適切ではありません。一方で、使用者には、「事業の正常な運営を妨げる場合」には、時季変更権が認められていますが、単に人手不足や代わりの人材が手配できないといった理由では、「事業の正常な運営を妨げる場合」として認められない可能性があります。なぜなら人手不足の解消は、使用者側が対応すべき事由であり、労働者の責ではないからです。使用者には、労働者が有給休暇を取得した場合に備えて代替要員の確保などの人材マネジメントや事業運営を行う必要があります。代替要員が必要な場合は、労働者の時期指定を早目にしてもらうなど一定の社内ルールを設けて周知しておくと良いでしょう。

 

 

(時期変更権等についての判例)

・使用者は労働者の指定した時期に休暇がとれるように、シフト調整や代替要員の手配などの配慮が求められます。このような配慮なしに、時季変更権を行使することは不適切となります。一方で、使用者の時季変更権は、有給休暇の取得開始前だけでなく、取得開始後や終了後に行使することも可能です(電電公社此花電報電話局事件 最一小判昭57.3.18)。

 

(事業の正常な運営を妨げる場合についての判例)

・労働者が年休を取得しようとする日の仕事が、担当業務や所属部・課・係など一定範囲の業務運営に不可欠で、代替者を確保することが困難な状態を指す(新潟鉄道郵便局事件 最二小判昭60.3.11)。

・結果的に事業の正常な運営が確保されても、業務運営の定員が決められていることなどから、事前の判断で事業の正常な運営が妨げられると考えられる場合、会社は年休取得時季を変更できる(電電公社此花電報電話局事件 最一小判昭57.3.18)。

・業務に具体的支障の生ずるおそれが客観的に伺えることを要する(名古屋近鉄タクシー事件 名古屋地判平5.7.7)。

・人手不足は、事業の正常な運営を妨げる場合に当たらない(西日本ジェイアールバス事件 名古屋高金沢支判平10.3.16)。

 

 

(取得理由や日数を限定した社内ルールはNG)

有給休暇は、労働者が自由に取得できるのが原則です。取得日数の制限や冠婚葬祭や病気など特定の場合にのみ有給休暇を使える、といった運用はできません。これらを行った結果、労働契約法上の総務不履行にあたるとして損害賠償を求められ判例もあります(甲商事事件 東京地裁 平成27年2月18日 判決)。

 

 

(事例・判例紹介)

・長期間の有給休暇の時期指定をされた場合は、事業運営の影響などを考慮し、労使でよく話し合うことが必要になってきます。調整を経ない時期指定に対しては、使用者にある程度の裁量を認めざるを得ないとする判例もあります(時事通信社事件 最三小判平4.6.23)。

・退職する社員から「有給休暇を消化してから退職したい」と言われた場合、原則、取得させることが求められます。ただし、退職日を超えて有給を取得させる必要はありません。また、退職前に有給を申請されたけれど、出勤して後任者への引き継ぎをしてもらいたい、といった状況もあるかと思います。この場合は、一方的に有給申請を拒否するのではなく、労使でよく話し合うことが必要になってきます。

・退職する社員から、欠勤日を未消化の有給休暇を使って有給休暇取得日に変更したいといった希望が出される場合があります。有給休暇の取得は事前申請が前提となっていますので、事後に欠勤日を有給に振り替えする義務は使用者にはありません。

・職場でのストライキのための有給休暇取得は、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当し、賃金請求権は発生しない(林野庁白石営林署事件 最二小判昭48.3.2)。

・有給休暇を取得した日を皆勤手当の算定において欠勤扱いとする場合の扱いについては、有給休暇取得を抑制される趣旨でなく、皆勤手当の額が相対的に大きいものでなければ可能(沼津交通事件 最二小判平5.6.25)。

・賞与計算において有給休暇取得日を欠勤日として扱うことはできない(エス・ウント・エー事件 最二小判平4.2.18)。

 

 

(年5日以上の年休取得義務)

2019年4月から、年次有給休暇が10日以上付与された労働者については、基準日(有給休暇を付与した日)から1年以内に、年5日については使用者が時期を指定して取得させることが義務づけられました。有給休暇を取得していない労働者がいた場合、使用者から働きかけて年5日以上取得させることが求められています。時期指定にあたっては労働者の意見を聴き、労働者の希望に沿って時期指定することが必要です。ただし、すでに5日の有給休暇を取得している労働者については、時期指定する必要はありません。また、年度末など繁忙期になってからの有給取得が困難な事業場については、年初に有給休暇の希望をヒアリングするなど、早目に働きかけを行いましょう。

 

 

(時間単位年休制度)

労使協定の締結により、年5日の範囲内で、時間単位での取得が可能となります(労働基準法第39条第4項)。子どもの学校行事や病院への通院、家族の介護など、さまざまな事情に応じて柔軟に休暇を取得することができます。時間単位年休は、1時間単位でも、1時間以外の時間(例えば、2時間、4時間)でも、設定可能です。ただし30分単位など1時間未満は認められません。また、時間単位年休における1日は、例えば所定労働時間が7時間30分の事業所では、切り上げて8時間として計算します。その結果、時間単位年休として利用できる時間数は、8時間×5日で40時間となります。

 

 

(計画的付与制度)

 

有給休暇のうち、5日を超える分については、労使協定の締結により、計画的に休暇取得日を割り振ることができる制度です。付与日数のうち5日は労働者が自由に使えるように残し、残りの日数について使用者が計画的に付与することができます。例えば、有給休暇10日の労働者は、5日。有給休暇20日の労働者は、15日が計画的付与の対象となります。付与方式としては、個人ごとに付与することもできますし、課やグループなどの単位ごと、あるいは事業所全体での一斉付与など、事業の状況にあわせて付与が可能です。ゴールデンウイークの飛び石連休時にブリッジホリデーとして付与することで、連続休暇を実現することができます。夏休みや年末年始の前後に付与することで、通常よりも長期の休暇を実現することも可能になります。制度運用の留意点としては、計画的付与として決定した有給休暇については、労働者の時期指定権、使用者の時季変更権が消滅してしまいます。つまり一度付与してしまうと、その後の変更は原則できませんのでご注意ください。

 

 

(有給休暇の前倒し付与)

労務管理の簡素化などのために、入社後6か月を待たずに有給休暇を付与することも可能です。例えば、4月1日の入社と同時に10日の有給休暇を付与する。あるいは3か月間の試用期間終了とともに5日のみ前倒しで付与といった扱いもできます。この場合、問題となるのが、次の付与日(基準日)がいつになるとかいうことです。通常、入社6か月後に付与した場合、つぎの付与は1年後(つまり入社1年半後)になります。しかしながら、前倒しで付与した場合、次の付与日は前倒しした日の1年後、あるいはそれよりも前の日にしなければなりません。

 

 

(有給休暇管理簿)

使用者は、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存する義務があります。時季、日数及び基準日の記録を労働者ごとに作成し、当該年休を与えた期間中及び当該期間の満了後3年間保存しなければなりません。労働者名簿や賃金台帳とあわせて調製すること、システム上での管理も認められています。

(罰則)

●年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合(労働基準法第39条第7項)

⇒労働基準法 第120条の罰則(30万円以下の罰金)※労働者一人につき一罪

 

●使用者による時季指定を行う場合において、就業規則に記載していない場合(労働基準法 第89条)

⇒労働基準法 第120条の罰則(30万円以下の罰金)

 

●労働者の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合(労働基準法第39条 ※第7項を除く)

⇒労働基準法 第119条の罰則(6か月以下の懲役または 30万円以下の罰金)

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